【連載コラム】 テレワーク時代の受注オーダーマネジメントシステム再構築の成功の鍵(5)
アナログ業務のデジタル化
前回までは、DX時代・テレワーク時代に向けた「受注オーダーマネジメント業務のあるべき姿」について考察してきました。
第5回では、受注オーダーマネジメント業務のシステム化に際し、業務の自動化のボトルネックになっている「アナログ業務」について考察します。
アナログ業務と一概に言ってもオーダーマネジメント業務のシステム化対象の範囲は多岐に渡ります。
システム化するにしても何から手を付けるべきか悩ましい課題です。
代表的な課題を整理しますと、
- タイムリーなデータ取り込み反映ができていないため一気通貫自動化の阻害要因となっており、全体の業務スピード・正確性を
著しく低下させている - 自社独自の様々な業務運用ルールや個別対応などの属人化したアナログ業務を業務運用ロジックとして見える化する必要がある
- ICT関連のネットワーク環境やセキュリティ確保といったシステム基盤の整備および自社の目指す姿の業務運用に
マッチしたツール選定をする必要がある
といったことが考えられます。
システム化を実現するにあたっては、正確なデータをシステムが保持していなければなりませんが、では、どのようにすれば良いのでしょうか。
重要なことは、データの標準化を行うことです。一つの商品であっても利用する部門によって異なった情報を持っていたり、取引先と同じデータを共有できていなかったりしています。
データ標準化のポイントとしては、以下のような標準規約を利用することが有用です。
- EDI (Electronic Data Interchange)持っているデータはお互いに交換して活用する
- GDS (Global Data Synchronization) お互いに共通のデータは同じ場所に登録・保存する
- BMS (Business Message Standard)交換できるデータの形式はみんなで標準化する
流通BMSなど小売流通業界全体でデータ形式を統一化する動きも進められています。
次に、データが正確な状態で業務自体のデジタル化に取り組みシステムを導入しても、必要な情報が取得できないといった為に壁にぶつかりプロジェクトが頓挫したり、システムが稼働したとしても正確な回答がシステムから出力されなければ業務の足枷になります。
特に受注オーダーマネジメント業務をデジタル化する場合は、一般的な取引先や商品の情報だけでなく、人間のノウハウであった業務情報のデータが管理されていないとシステムの信用性が損なわれ、せっかくシステム化したとしてもアナログ業務に戻ってしまいます。
オーダーマネジメント業務に必要なマスタ情報は以下のような項目があります。
- 商品のリードタイム情報
– 生産リードタイム
– 発注-入荷リードタイム(納品地別)
– 発注-直送リードタイム(納品地別)
– 物流拠点間の移動リードタイム - 商品・納品地毎の物流ルート情報
- 物流上の作業開始時刻・作業時間
- 自社、取引先、倉庫などの休日情報
また扱う製品によっては「有効期限」や「ロット情報」等、在庫毎に固有の情報の管理が必要なケースもあります。
これらの全てのデータ化が可能であれば、受注オーダーマネジメント業務の自動化が推進できます。しかしながら、リードタイム通りにモノが入荷しない、配送便の手配ができない等、設定通りにいかないといった現実があります。
更には、ほぼルールベースで運用が可能な業務、そしてルール外の事象が発生する可能性が高い業務があり、これらが複雑に絡み合い不連続でアナログ的な対応になっているからこそデジタル化が難しい要因となっています。
しかしながら、経営視点から見れば設定が難しいという理由で業務オペレーションを現状のまま放置するという選択肢はありません。上記の各種設定を統合的にハンドリング可能な情報システムを導入し、まずは「70点からスタートし」でもいいですので、新たな業務効率化を実現可能な業務基盤を構築することが重要です。
本稼働後、新しいオペレーションを実行しながら、平行して各種設定パラメータの精度を高めて行くことをお勧めします。
では実際に受注オーダーマネジメント業務のデジタル化を進めるにはどうしたら良いのでしょうか。
先ずは自社の受注オーダーマネジメント業務のデータに対して、1つ目はデジタル化が容易もの、2つ目はコストをかければ可能なもの、3つ目はデジタル化が困難と考えているものに切り分けて下さい。
1つ目は自動化に取り組む対象。
2つ目はデジタル化での業務運用の中で自動的にデジタル化していく仕組みを用意する。
問題は3つ目ですが、無理やりデジタル化せずに、対象の業務が発生するプロセスを洗い出し、発生した場合に人間判断をシステムに入力できるようにすることが必要です。
業務をスムーズに回す為に、自動化が出来ない業務が発生した場合、システムから通知出来るような仕組みを用意しておくと良いでしょう。
人間の知見により判断を必要とする事柄も、判断結果をデジタル化してデータとして蓄積し活用することにより、人間判断が必須と思われたケースであっても自動化可能である事に気が付くケースもあります。
例えばAという顧客の特定商品については、在庫不足の場合には必ず納期遅延してでも納品しているということが蓄積されたデータから判れば、受注のタイミングでシステムから「納期遅延でも納品すべき」という情報を業務担当者に通知する事が可能です。
次に、日々発生するデータのデジタル化について考えてみます。
受注オーダーマネジメントに必要なデータの起点は、需要(引合い、先行発注情報、等)もしくは受注オーダーです。
需要データや受注データが発生することにより物流ネットワーク上の必要な在庫数がわかります。
また、先ほど記載したマスタデータが整備されていることで、関連する生産依頼データ、発注指示データ、倉庫間の移動指示データなどは条件を定めておくことで自動的に作成することが可能です。
これらのデータがデジタル管理されることにより、第2回コラムで紹介した「モノの流れの見える化」および第3回コラムの「時間軸の在庫管理」のシステム化が実現できることになります。
<第2回コラム https://www.fw-solutions.com/column/our-oms/3270>
<第3回コラム https://www.fw-solutions.com/column/our-oms/3298>
そして、納品起点の物流ネットワーク上の時間軸在庫計算を行い、日時毎の利用可能在庫量を正確に把握し精度の高い引当をすることにより、各種手配の自動化(図1)を実現することができるようになります。
すなわち、受注オーダーの手配業務の意思決定システムと言えます。
これらのことにより、受注オーダーマネジメント業務のデジタル化を図ることで、「業務の標準化」・「業務コストの削減」だけでなく、「正確な納期回答」や「納品リードタイムの短縮」につながり顧客満足度の向上を実現できます。
今後、急速に物流DXが進展し、物流センターの機械化やモノの位置情報、倉庫や車両の空き情報、地域の交通情報等がビッグデータ化され、AI技術による配送ルートの最適化や積載貨物量の最適化等により飛躍的なデータ精度の向上が図られていきます。
すなわち、SCM・ロジスティクスを俯瞰する「モノの流れの見える化」のためのDXが進行中と言えます。
受注オーダーマネジメント業務の「アナログ業務のデジタル化」を推進し、「モノの流れの見える化」のデジタル・データを活用して、高度な受注オーダーマネジメントの意思決定システムを目指してはいかがでしょうか。
次回は、「縦割りシステム構造によるデータのサイロ化からの脱却」について考察致します。