消費財メーカーの需給調整/PSIシステム化のポイント

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消費財メーカーの需給調整/PSIの特長

今回は、一般消費財メーカー、欧米では一般的にCPG(Consumer Packaged Goods)と言われているメーカーの需給調整業務において、システム化のポイントを解説します。
一般消費財といっても、CPGは主に常温の食品、菓子、飲料、日用品、雑貨などを指します。最大の特徴は製品が最終的に一般コンシューマによって購入され消費されることであり、マーケットには以下のような特徴があります。

  • 製品単位の需要変動が激しい(一部定番品を除く)
  • コンシューマの嗜好に合わせて、製品の入れ替えが激しい
  • ブランド力が消費に大きな影響を与える
  • 価格・キャンペーンが売れ行きに大きな影響を与える

 

そして、

  • 製品数(SKU数)が膨大
  • 生産量、消費量もまた膨大

 

 

今回のテーマ「需給調整」の業務は、企業の中で「P-生産」「S-販売」「I-在庫」を常に最適にコントロールする重要な役割を担っています。ことに消費財メーカーにおいては、「P-製品」の入れ替わりが非常に早く、膨大な新製品を投入した中で売れ筋を見極めねばなりません。「S-販売」は、移り気な消費者の嗜好によって左右され、先行きが計画し難い領域ではありますが、一方でキャンペーン等の仕掛けによって大きく変わる、という一面もあります。人間の “読み” “判断力” “企画力” などが業績に直結するため、マーケティングドリブンの企業様が多いのではないでしょうか。
そして「I-在庫」は、欠品(=販売機会損失)は避けたいものの、入れ替わりが激しい上に点数も多く、有効期限もあるため、余剰在庫の死蔵化・廃棄のリスクは非常に高いと言えます。需要に応じて在庫レベルを適切に調整することが重要です。
 
このような業界特長から、消費財メーカーは、世界的に見ても比較的早い時期からSCMに着目していました。欧米および日本の一部大手を中心に、メーカー・卸・小売三者が協力しながら最適な需給計画を立案するCPFR(Collaborative Planning Forecasting Replenishment)の取り組みは、1990年代後半にスタートしています。
しかし、日本においては、独特の商習慣や様々な利害関係の調整が難しく、あまり成功したとは言えない状況にあります。このような状況の中で、大手を中心に各メーカーは独自の取り組みでSCM・需給調整を進化させてきています。

消費財(CPG)の需給調整の難しさ

消費財メーカーにおける「需給」とは何か、もう少し詳しく見てみましょう。

需要(Demand)の特徴

  • 欠品=販売機会損失 
    製品によって多少の差はありますが、一部ロイヤルカスタマーを除いて、一般的に消費者は欠品していれば他社の同等品を購入してしまいます。
  • 特売 
    小売業で、毎日どこかで常に行われています。加工食品の場合はBC級品での特売が多いですが、日用品ではA級品でもローテーションを組んで特売を行っています。特売時の欠品を、いかに避けるかが重要です。
  • 新製品 
    加工食品・飲料では投入頻度が高く、日用品では相対的に低い傾向にあります。新旧製品の切り替え時、旧製品の売れ残りは極力避けたいものです。

製造・供給(Supply)の特徴

  • 生産ロットサイズ 
    一般的にロットサイズが大きく、加工食品では、大ロットサイズ生産によって、売れ残ってしまった在庫の期限切れ廃棄率が高まる危険性があります(有効期限の無い日用品であれば、次回の生産バケットで調整が可能です)。
  • 生産バケット 
    各社様々ではありますが、賞味期限がある加工食品は週又は日が多く、日雑品では週または月が一般的です。

需給調整システム化の要点

これらの点を踏まえて、消費財メーカーにおける需給調整をシステム化するポイントとそのメリットを整理します。攻めと守りの2点で考えて行きましょう。

「攻め」のポイント -需要情報を制すー

消費者の嗜好、小売りの特売キャンペーンによって需要は日々変化します。この需要を読み、早期に生産に反映することが求められています。

  1. 様々な需要情報の一元管理による需要の見える化 
    「販売計画」「特売情報」「大口顧客からの発注予定情報」など、複数の形態をとる需要情報をシステム上で一元管理し、まず見える化することが、適切な生産計画の立案やタイムリーな需給調整実施の基盤となります。これらの情報を、もしも営業担当が個人の表計算ソフト等で管理していたとしたら、複数部門で最新のPSI情報を共有することは出来ません。
  2. 需要予測・生産必要量計算のシステム化による作業支援 
    100%当てる事は不可能ですが、季節性等を含めてシステムでほぼ70%〜80%以上は的中させることが出来るでしょう。特に年間、半期、四半期単位での予測は高い精度を示す傾向があります。システムでの予測の結果を鵜呑みにしてはいけませんが、需要計画の参考値として利用できるでしょう。最終的には特売・大口受注予定などと併せて全体の需要計画を確定していくこととなります。結果として、全体的に見れば人間による予測と大きな差はないものです。そして、その分の作業から解放された人間のパワーを、新製品発売前後やマーケティングに注力させることが可能になります。
  3. 未来需要に応じた在庫レベルのダイナミックな調整 
    過去の需要による在庫基準(日数、安全在庫など)を設定するのではなく、未来の需要に応じて適切な在庫レベルを調整することも重要でしょう。今週たくさん売れましたが、来週が落ち込むという予測であれば、在庫レベルを来週の予測に合わせるべきでしょう。多くのメーカーでは過去の在庫レベルをそのまま維持し、需要の大きな変動が起こるタイミングで在庫過剰や欠品が発生しがちです。需要の一元化管理と同時に手間をかけずに需要に応じた在庫レベルのダイナミックな調整も不可欠です。
  4. 予実対比の実施、進捗度の把握 
    システムを用いて常に予実対比を実施し、進捗度を把握し、売れ行きに従ってマーケティング・販売施策に連動することも必要です。新製品の発売直後は特に重要でしょう。
    また、未来に起こりうる過剰在庫、欠品リスクを早期に発見し、緊急対策を打てるようにすることも重要です。

「守り」のポイント -受注納品手配の予定も含めた全在庫資源の有効活用と徹底的なスピードアップ

需要を読んで適切に生産計画を立てたとしても、突然の大口注文など、様々な可能性が起こり得ます。受注オーダーに迅速に納品できるよう、全在庫への瞬時照合や、確定生産計画(入荷予定)への引当てなど、可能な限りオーダーに対応できる仕組みが有用です。(かつ、オペレーションコストをかけずに行えることがベストです。)

  1. 確定受注オーダーに対する在庫リソース活用 
    各物流拠点へ配置済みの在庫と、必要に応じて確定生産計画(入荷予定)への引当ても行えると、オーダーへの対応力が高まると同時に顧客サービスの向上にもつながります。
    倉庫間の移動や、工場直送まで「どうすれば一番早く納品できるか」を(輸送のリードタイムを含めて)瞬時に計算・指示するFulfillment(フルフィルメント・手配)機能が多忙な業務のスピードアップと在庫リソースのフル活用に役立ちます。
  2. 通常以外の納品手段もフル活用し、失注を防止 
    供給がどうしても不可能な場合、納入先によっては類似の代替品を受け入れてくれるかもしれません。代替品の提案機能はささやかながら、顧客サービス面で役立つ場面もあります。

 


 
消費財メーカーでは、他にも、より小ロットで多頻度の生産技術を確立することや、マーケティングと連動した製品数の絞り込みなど、製販含めて様々な課題があることでしょう。しかし、それらの前提として、まずは需要の一元管理など、PSI(需給)情報の共有とシステム化は必ず必要になります。今後、さらに一歩進んでAI技術を利用した需要予測を取り入れるなど、将来像も具体的に描くことが出来るようになるでしょう。
 
もし今現在、特売など需要情報の管理やPSI(需給)情報が、表計算ソフト上の手作業で行われていたり、受注手配が人間判断に依存しているとしたら、これらの業務のシステム化を検討し始めては如何でしょうか。